

「民藝品」とは、人の手から生み出された日常使いの生活道具。量産品にはない温もりや美に多くの人が魅了されています。藍田さんは「私の出身は盛岡で、祖母は日常、竹ザルやかごを使っていました。そのため子どもの頃から手仕事の道具は身近なものであり、自然に民藝品や人の手で生み出されたものに心惹かれていきました」と言います。
一方、デザインやアパレルの仕事を経てハイブランドバッグなどの修理に携わっていた髙井さんは、最初はかごに興味はありませんでした。それが藍田さんの影響で山葡萄かごに触れ、「ごまかしのない形や技、唯一無二の存在感」に驚きすっかり虜に。70歳を過ぎてから山葡萄かごを編むようになり、鎌倉に自身のアトリエを開くまでになりました。
お2人の自宅は、ジャンルや時代に関係なく藍田さんが気に入ったものでいっぱいです。古道具があるかと思えば、高名な工藝家や若い作家の作品、観光地の土産物、正体不明の物体まで……無造作に掛けたり並べたりしてあるだけで、不思議に格好よく調和しています。それは藍田さんのセンスに加え、手から生まれたいう共通項があるからかもしれません。
藍田さんは手仕事のものの魅力を、「長く使え、飽きないこと。つくり手の愛情がこもっていること」、高井さんは「同じものはつくれない、オンリーワンであること」と答えてくれました。「手仕事の品は値段が張ると言われますが、たとえば山葡萄かごならば限られた時期だけ山奥に入り、10m以上も木に登って蔓を取るところから始めなければならず、準備だけでも大変なのです。工程がわかると、決して価格だけではないと理解していただけると思います。また民藝品を美術工藝品のようにとらえ、もったいなくて使えないという声も聞きます。しかし、もともと日常使いの道具なのだから、もっと気軽に使ってもらえるとよいと思います」と髙井さん。
民藝品に興味はあっても、扱いが大変なのでは?とためらっている人は「まずは、本当に気に入ったものを1つ手元に置き、そこからひろげていけばよいのかも。気に入ったものを使う生活は楽しいですよ!」と藍田さん。「実は私は面倒くさがりですが、好きなものならば、言われなくても大事に扱うようになりました」。
藍田さんは「手仕事と作家たちの背景を知ってもらい、ものと人がつながる場所をつくりたい」と、昨年、蔵前に手仕事のものを扱う店をオープン。公私ともに愛あるものたちに囲まれる気分がよい日々を過ごしています。

髙井さんがつくった山葡萄かご。
後ろはクルミで編んだかごです

もちろん現役で、日々の調理で大活躍!

① 引っ越す前の家で使っていたイサムノグチの照明器具。今の家では使えないためオブジェとして飾っています
② ダイニングチェアには倉敷ノッティング、足元にはオールドキリムのラグ
③ 廊下のチェアの上には波津あゆ子さん作の猫たち。皆個性的で一目惚れしてしまいます
④ 芹沢銈介さんの絵葉書、与那国島のクバの葉でできたウブル、何に使ったか藍田さんにもわからない金属の道具、漆の和紙などを、好きなようにディスプレイ
⑤ 玄関を一歩入ると、国も素材も用途も異なる様々なものがお出迎え。身の回りの道具もこうして飾るとオブジェのよう。向井詩織さんのテキスタイルも

年代・職業:70代(山葡萄かご職人)、50代(ngumiti蔵前 マネージャー)
住居区分:賃貸 居住年数:3か月
同居人:2人暮らし

「もともと、民藝の世界観や手仕事のぬくもりに強く惹かれていた」という関根さん。大学4年生の頃、母親のカフェオープンに合わせて備品を揃えに通った益子で器と出会い、実際に使い続けたことで、手仕事のものが持つ奥深さに一気に開眼しました。
社会人になってからは仕事に没頭する日々。そんな中でふと“つくり手の気持ちを味わってみたい”“手を動かす時間を取り戻したい”そんな思いが膨らんでいきました。そこで訪れたのが、「喜利具・山葡萄かごのワークショップ」。初めてかごを編み“僕の心が求めていた世界はここにあったんだ”と確信できた瞬間の喜びは、今でも手にとるような感覚で鮮明に蘇るそうです。「あの場所で、あの時間こそが、間違いなく今の僕のスタートラインでした」
現在、日本の繊維産地の魅力を伝えるアパレルブランド「UNFOLKCLASSIC」、そして山葡萄かご作家・高井鉄郎氏のパートナーである藍田留美子さんと共に、東京・墨田区の「ngumiti 蔵前」でディレクターとして奮闘する日々。昨年から本格的にSNSでの発信を始めたところ「自分と同じような世界観を愛する方が想像以上に多く、SNSを通して新たなつくり手さんとの出会いが増え、ワクワクしています」と語ります。
そんな関根さんのワンルームには、伝統的な民藝から新進気鋭の作家の作品まで、さまざまな世界観がぎゅっと凝縮されています。決して物が少ないわけではないのに、空間が不思議と落ち着いて見えるのは、関根さん自身の“ものを見る軸”がぶれていないからなのでしょう。
作品を見るとき、関根さんがまず気にするのは「どんな素材で、どんな工程を経て、なぜこの形が生まれたのか」ということ。「つくり手さんがどこに情熱を注いでいるのかを知った上で暮らしに迎えると、そのものがあるだけでエネルギーをもらえるんです」と微笑みます。手仕事のものは“壊れたらどうしよう”と心配されがちですが、「器なら金継ぎ、服ならダーニングのように、直しながら使える文化があります。それを知るだけで、手に取る時のハードルがぐっと下がりますよね」とも。
これからも、関根さんは「素晴らしい作品を生み出す作家さんを紹介していきたい」と話します。この先どんな美しい民藝品や手仕事と出会わせてくれるのか、楽しみです。



① 細々したものは、壁にかけるか、壁際にまとめるか。飾る場所が決まっているので、たくさんあってもスッキリした印象になります
② ラックの上には実家から持ってきた古いかごや、だるま、陶器のオブジェ
③ ガラスや粘土でできた白いものだけ、白い小家具の上に集めてあります
④ 古道具屋で見つけた古い板を並べて目隠し仕切りに。それだけで和な雰囲気が出ます
⑤ ベッドの上には一目惚れしたcheerkingさん作のナマケモノのぬいぐるみ。服の残布でつくられています
⑥ 装飾の中心は、今一番気になるつくり手・タシロユミコさんのタペストリー

年代・職業:20代(コーディネーター)
住居区分:賃貸 居住年数:3年
同居人:1人暮らし
り手さんの情報などをInstagram(@daichi.sekne)で発信しています。


