
人の手でつくられたものって、なんだかあたたかい。
大量生産ではないからこそ生まれる小さな表情のちがいが、冬はいっそう心に沁みます。
今回は手仕事が息づく街として、蔵前(東京)、那覇(沖縄)の二つの街の魅力をご紹介します。

東京・台東区の南東部に位置する蔵前は、手仕事の文化が根付いた街。大正時代以降、関東大震災をきっかけに人形職人たちが集まるようになり、玩具問屋街として成長してきました。江戸通りをはじめとする主要な通りを歩くと、バンダイやエポック社といった有名おもちゃメーカー、クラフト材料などの問屋が見られます。近年は、伝統を守る工房に加え、古いビルや倉庫をリノベーションした個性あふれるカフェなど新しい魅力も増加。「東京のブルックリン」とも呼ばれていて、先代の美意識を受け継いだ若いクリエイターやアーティストなども多く住んでいます。
蔵前は、浅草や上野などの観光地の近くですが、落ち着いた雰囲気が漂う、暮らしやすい下町。昭和の面影が残る街には飲食店やカフェ、雑貨屋などが立ち並び、日用品の買い物や外食には困りません。保育園や小児科がある病院もあり、平坦な道が続くため自転車移動が多い子育てファミリーにとっても暮らしやすいエリアです。花火大会も見られる隅田川沿いの遊歩道などのお散歩スポットも豊富なうえ、都心へのアクセスもよく遠出もしやすいです。蔵前駅(都営浅草線・大江戸線)に加え、徒歩圏内でJR総武線や東京メトロ銀座線など5路線が利用可能。東京駅や羽田・成田空港へも移動しやすく、日常の便利さと下町の温もりが見事に調和した街です。
カキモリ/株式会社ほたか 代表
広瀬琢磨さん




人と機械がつくることで
あたたかく、機能的なものになるんです
実家は祖父の代から文房具店を営んでいます。ある日、父から「会社(ほたか)をやってみないか」と誘われたことをきっかけに別の業界から転職し、経営に携わるようになりました。以前はBtoB向けの事務用品を中心に扱っていましたが、市況はかなり厳しいものでした。そこで一般消費者向けかつ専門店という新たな領域にシフトし、立ち上げたのが「カキモリ」です。文房具店はニッチな小売業だと自覚していたので、できるだけコストを抑えつつ、これから面白くなりそうな立地を探した結果、たどり着いたのが蔵前でした。今でこそカフェや物販店が立ち並び賑わっていますが、当時はまだ静かで家賃がとても安かったんです。開店当初はスタッフ1、2名、売上目標も1日8万円ほどに設定していましたが、現在ではECサイトでの販売や海外店舗への卸売展開を実現しました。まさかここまで成長するとは思ってもいませんでした。
「カキモリ」では、コンセプトである“たのしく、書く人”のもと、スタッフが「いい」と思える文房具を基準にセレクトやものづくりをしています。かつてはニーズや売上を重視した時期もありましたが、それではスタッフが愛情を持っておすすめできず、店としての個性も薄れてしまうと感じ、現在のラインナップになりました。また、書くことはペンと紙の組み合わせが大切だと考え、さまざまな紙や留め具を組み合わせられるノートづくり体験も実施。紙製品の職人や問屋が多く残る蔵前だからこそ実現できた取り組みです。品揃えは約1,000点と文具店としては多くはありませんが、「カキモリ」でしか出あえないものがある。それが店の魅力だと思っています。
蔵前の魅力は、下町の伝統を大切にしながらも、新しいことを受け入れる柔軟さにあると感じています。私も地方出身なのですが、地方では排他的になりがちな「来る人は拒まず」という精神がここには根付いていて、自分から交わりに行けば新しく住み始めた人もすぐに馴染めるはずです。たとえば、1951年から続く銭湯「三筋湯」や、洗練されたスタンディングバー「NOMURA SHOTEN」では、ローカルの方々との出会いも多く、自然と深い関係が築けると思います。私と同じような小さな会社の経営者も多く、お互いに助け合う風潮もあるので、お店を始めるにも向いている街だと感じています。これからもこの地で、「カキモリ」を通して書くことの価値を伝えていきたいです。
ビストロカンパーニュ
蔵前で仕事を始めた当時は、今ほど横のつながりはなく、同じように新しく蔵前に来た人同士で親交を深めるのが難しかったです。それでも、自然と人が集まっていたのが「ビストロカンパーニュ」。食事とお酒を通して、日々新たな出会いが生まれていました。オーナーである塩川さんの発起で、この地で生活や仕事をする人を集め、隅田川の土手でピクニックしたこともいい思い出。僕にとって蔵前の人とのつながりを広げてくれた店です。
暮らしのスポット


カキモリ

LITSTA kuramae
沖縄本島南部に位置する県庁所在地、那覇。交通アクセスがよく、那覇空港や都市モノレール「ゆいレール」、那覇バスターミナルなどが集結。車社会の沖縄では珍しく、公共交通だけで市内を自由に移動できます。那覇港など海路も多く「沖縄の玄関口」と呼ばれ、休日には離島でマリンスポーツを楽しむことも可能です。また、百貨店やスーパーなどの商業施設も揃っていて、徒歩圏内で日常の買い物が終えられるため、快適な暮らしが送れます。
海外との交流拠点として発展してきた那覇には、復元工事中の首里城跡など琉球王国に由来する史跡や文化が数多く残っています。飲食店やお土産屋さんなどが並ぶ国際通り周辺には、工房や体験施設が点在。壺屋焼や琉球ガラス、三線など多彩な民藝品・工芸品を通して那覇の手仕事に触れることができます。また、市内では那覇三大祭りやエイサー大会、王朝行列など多くの行事が毎年開催され、受け継がれてきた伝統に触れる機会も豊富。那覇に暮らせば、日々の生活の中で新しい体験や発見がある、刺激的な暮らしが待っています。

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