December
2025
Vol.65
手仕事のお店が集まる東京・蔵前と沖縄・那覇の魅力を紹介
SCROLL

手仕事のお店が集まる東京・蔵前と沖縄・那覇の魅力を紹介

人の手でつくられたものって、なんだかあたたかい。
大量生産ではないからこそ生まれる小さな表情のちがいが、冬はいっそう心に沁みます。
今回は手仕事が息づく街として、蔵前(東京)、那覇(沖縄)の二つの街の魅力をご紹介します。

text:Kanta Kosugi photo:Ushio Sato
  • 時代の面影と文化が人を集める街 蔵前(東京都)
  • 琉球由来の手仕事が彩る街 那覇(沖縄県)
※休業日や営業時間については、各公式サイト等でご確認ください。
時代の面影と文化が人を集める街 蔵前(東京都)

時代の面影と文化が人を集める街 蔵前(東京都)

メインストリートのひとつ、国際通り。古い建物をリノベーションした趣深い外観のお店が並ぶ

蔵前ってどんな街?

東京・台東区の南東部に位置する蔵前は、手仕事の文化が根付いた街。大正時代以降、関東大震災をきっかけに人形職人たちが集まるようになり、玩具問屋街として成長してきました。江戸通りをはじめとする主要な通りを歩くと、バンダイやエポック社といった有名おもちゃメーカー、クラフト材料などの問屋が見られます。近年は、伝統を守る工房に加え、古いビルや倉庫をリノベーションした個性あふれるカフェなど新しい魅力も増加。「東京のブルックリン」とも呼ばれていて、先代の美意識を受け継いだ若いクリエイターやアーティストなども多く住んでいます。

蔵前は、浅草や上野などの観光地の近くですが、落ち着いた雰囲気が漂う、暮らしやすい下町。昭和の面影が残る街には飲食店やカフェ、雑貨屋などが立ち並び、日用品の買い物や外食には困りません。保育園や小児科がある病院もあり、平坦な道が続くため自転車移動が多い子育てファミリーにとっても暮らしやすいエリアです。花火大会も見られる隅田川沿いの遊歩道などのお散歩スポットも豊富なうえ、都心へのアクセスもよく遠出もしやすいです。蔵前駅(都営浅草線・大江戸線)に加え、徒歩圏内でJR総武線や東京メトロ銀座線など5路線が利用可能。東京駅や羽田・成田空港へも移動しやすく、日常の便利さと下町の温もりが見事に調和した街です。

佐竹商店街は、日本で2番目に古い商店街。映画やドラマのロケ地としても有名
佐竹商店街は、日本で2番目に古い商店街。映画やドラマのロケ地としても有名
街の人
海外人気も高い文房具店を経営

カキモリ/株式会社ほたか 代表
広瀬琢磨さん

蔵前にある文房具店「カキモリ」を営む株式会社ほたかの代表・広瀬琢磨さん。既製品の販売にくわえ、お客様がノートやインクを自由につくれる体験を実施できているのは、優れた町工場や問屋の多い立地が関係しているといいます。カキモリのこだわりや蔵前の魅力について語っていただきました。
広瀬琢磨さん
カキモリの店内。ヘリンボーン柄の床が目を引く
カキモリの店内。ヘリンボーン柄の床が目を引く
自分好みのパーツを組み合わせてつくれる「オーダーノート」などワークショップも開催
自分好みのパーツを組み合わせてつくれる「オーダーノート」などワークショップも開催
自分好みのパーツを組み合わせてつくれる「オーダーノート」などワークショップも開催
全てを手仕事にするのではなく 人と機械がつくることで あたたかく、機能的なものになるんです
全てを手仕事にするのではなく
人と機械がつくることで
あたたかく、機能的なものになるんです

ニッチな小売業との相性がいい蔵前に出店

実家は祖父の代から文房具店を営んでいます。ある日、父から「会社(ほたか)をやってみないか」と誘われたことをきっかけに別の業界から転職し、経営に携わるようになりました。以前はBtoB向けの事務用品を中心に扱っていましたが、市況はかなり厳しいものでした。そこで一般消費者向けかつ専門店という新たな領域にシフトし、立ち上げたのが「カキモリ」です。文房具店はニッチな小売業だと自覚していたので、できるだけコストを抑えつつ、これから面白くなりそうな立地を探した結果、たどり着いたのが蔵前でした。今でこそカフェや物販店が立ち並び賑わっていますが、当時はまだ静かで家賃がとても安かったんです。開店当初はスタッフ1、2名、売上目標も1日8万円ほどに設定していましたが、現在ではECサイトでの販売や海外店舗への卸売展開を実現しました。まさかここまで成長するとは思ってもいませんでした。

愛情を持っておすすめできるラインナップ

「カキモリ」では、コンセプトである“たのしく、書く人”のもと、スタッフが「いい」と思える文房具を基準にセレクトやものづくりをしています。かつてはニーズや売上を重視した時期もありましたが、それではスタッフが愛情を持っておすすめできず、店としての個性も薄れてしまうと感じ、現在のラインナップになりました。また、書くことはペンと紙の組み合わせが大切だと考え、さまざまな紙や留め具を組み合わせられるノートづくり体験も実施。紙製品の職人や問屋が多く残る蔵前だからこそ実現できた取り組みです。品揃えは約1,000点と文具店としては多くはありませんが、「カキモリ」でしか出あえないものがある。それが店の魅力だと思っています。

多くの筆記用具を実際に試すことができ、使い心地で購入を検討しやすい
多くの筆記用具を実際に試すことができ、使い心地で購入を検討しやすい

新しいことも受け入れる柔軟な下町

蔵前の魅力は、下町の伝統を大切にしながらも、新しいことを受け入れる柔軟さにあると感じています。私も地方出身なのですが、地方では排他的になりがちな「来る人は拒まず」という精神がここには根付いていて、自分から交わりに行けば新しく住み始めた人もすぐに馴染めるはずです。たとえば、1951年から続く銭湯「三筋湯」や、洗練されたスタンディングバー「NOMURA SHOTEN」では、ローカルの方々との出会いも多く、自然と深い関係が築けると思います。私と同じような小さな会社の経営者も多く、お互いに助け合う風潮もあるので、お店を始めるにも向いている街だと感じています。これからもこの地で、「カキモリ」を通して書くことの価値を伝えていきたいです。

おすすめスポット

ビストロカンパーニュ
蔵前で仕事を始めた当時は、今ほど横のつながりはなく、同じように新しく蔵前に来た人同士で親交を深めるのが難しかったです。それでも、自然と人が集まっていたのが「ビストロカンパーニュ」。食事とお酒を通して、日々新たな出会いが生まれていました。オーナーである塩川さんの発起で、この地で生活や仕事をする人を集め、隅田川の土手でピクニックしたこともいい思い出。僕にとって蔵前の人とのつながりを広げてくれた店です。

蔵前で30年以上愛される「ビストロカンパーニュ」。フランスの郷土料理など日本では珍しい食事と80種を超えるアルコールを提供
蔵前で30年以上愛される「ビストロカンパーニュ」。フランスの郷土料理など日本では珍しい食事と80種を超えるアルコールを提供
東京都台東区蔵前4-20-9
スポット
手仕事のぬくもりが宿る

暮らしのスポット

蔵前には、国内外から多くの人が足を運ぶ、手仕事にまつわるスポットがあります。生活にぬくもりを添えてくれるお店をご紹介。
暮らしのスポット
SPOT01
自分好みの書きものに出あう

カキモリ

カキモリ
カキモリ
カキモリ
蔵前駅から徒歩約10分の場所にある文房具店「カキモリ」。ペンや万年筆をはじめ、紙質の異なるノートやレターセットなどを1,000点以上揃えている。スタッフが「書くこと」の心地よさにこだわってセレクトしたアイテムが並び、海外や日本の職人による一級品も多彩。ほとんどの商品は実際に書き心地を試せるうえ、文房具愛にあふれるスタッフが相談に乗ってくれるので、きっと自分に合った書きものに出あえるはず。
東京都台東区三筋1-6-2 1Finstagram@kakimori_tokyoshop
SPOT02
手作りレザーアイテムのあたたかみに触れる

LITSTA kuramae

LITSTA kuramae
LITSTA kuramae
LITSTA kuramae
レザーアイテムブランド『LITSTA』のアトリエショップ。イタリア製の上質な牛革で仕上げた財布やブックカバー、バッグなど30種類以上の小物を販売している。ECサイトと変わらないラインナップが揃い、気になっていたアイテムを実際に見て、触れて選べるのが魅力。クリエイターによる手づくりにこだわり、商品は併設のアトリエで制作している。一つひとつ異なる表情を持つ革製品を長く愛用してもらうため、アフターサービスも万全。
東京都台東区蔵前4-6-9 Sunny Place Annex 1Finstagram@_litsta_
SPOT03
つくり手と使い手をつなぐ場所

ngumiti 蔵前

ngumiti 蔵前
ngumiti 蔵前
ngumiti 蔵前
2024年2月にオープンした、鎌倉に拠点を持つブランド「喜利具」が制作する、“100年カゴ”ともよばれる山葡萄籠(やまぶどうかご)のショールーム。山葡萄籠づくりを実際に体験できるワークショップをメインに、長く愛用できる手仕事の作品を紹介する。個展や企画展のほか、“カタチにすることを自由に愉しむ”つくり手によるワークショップも開催。さまざまな感覚を楽しめる場所として、刺激や温もりを求めて多くの人が足を運ぶ。
東京都墨田区本所1-23-3 2Finstagram@ngumiti_kuramae
琉球由来の手仕事が彩る街 那覇(沖縄県)

琉球由来の手仕事が彩る街 那覇(沖縄県)

高層ビルが建つ近代的な風景と自然のバランスよく調和する那覇市内の街並み

沖縄本島南部に位置する県庁所在地、那覇。交通アクセスがよく、那覇空港や都市モノレール「ゆいレール」、那覇バスターミナルなどが集結。車社会の沖縄では珍しく、公共交通だけで市内を自由に移動できます。那覇港など海路も多く「沖縄の玄関口」と呼ばれ、休日には離島でマリンスポーツを楽しむことも可能です。また、百貨店やスーパーなどの商業施設も揃っていて、徒歩圏内で日常の買い物が終えられるため、快適な暮らしが送れます。

海外との交流拠点として発展してきた那覇には、復元工事中の首里城跡など琉球王国に由来する史跡や文化が数多く残っています。飲食店やお土産屋さんなどが並ぶ国際通り周辺には、工房や体験施設が点在。壺屋焼や琉球ガラス、三線など多彩な民藝品・工芸品を通して那覇の手仕事に触れることができます。また、市内では那覇三大祭りやエイサー大会、王朝行列など多くの行事が毎年開催され、受け継がれてきた伝統に触れる機会も豊富。那覇に暮らせば、日々の生活の中で新しい体験や発見がある、刺激的な暮らしが待っています。

那覇空港駅からてだこ浦西駅を結ぶ「ゆいレール」
那覇空港駅からてだこ浦西駅を結ぶ「ゆいレール」
SPOT01
那覇らしいクラフト品との出あいの場

craft house sprout

craft house sprout
craft house sprout
craft house sprout
歴史ある焼き物の街の壺屋やちむん通りに佇むセレクトショップ。焼き物やガラス、木工などの幅広い民藝品・工芸品がおよそ200種類並ぶ。伝統的な品から、店名の「Sprout(新芽)」のように時代に合わせた新しい感覚の作品まで、セレクトは店主自らが行っている。ほとんどが地元の手づくりの品で、作品が持つあたたかみが自宅を心地よい空間にしてくれる。那覇ならではのクラフトとの出合いを求める人にぴったりの場所。
沖縄県那覇市壺屋1-17-3 ジョトール壺屋102号instagram@crafthousesprout2
SPOT02
伝統工芸に触れるささやかな時間

国際通りのガラス館

国際通りのガラス館
国際通りのガラス館
国際通りのガラス館
観光名所・国際通りにある、沖縄伝統工芸「琉球ガラス」の体験施設。フォトフレームやランプシェードなど多彩なコースが揃うなかでも、人気が高いのは吹きガラス。1人15〜20分の短時間で伝統的なガラス制作に触れられるため、旅行の合間などでも気軽に楽しめる。また、砂や研磨材でグラスに彫刻を入れるサンドブラストも好評。制作したグラスは翌日店舗で受け取るか、発送のどちらかを選べ、自宅で手仕事の魅力を楽しめる。
※発送には別途手数料が必要
沖縄県那覇市牧志1-B4-43新川ビル3-B号室instagram@kokusai.glass
SPOT03
三代目の作品も並ぶ、老舗陶器店

つぼや工藝店

つぼや工藝店
つぼや工藝店
つぼや工藝店
現在の三代目店主・RYUさんの祖母が1955年に創業した、やちむん通りで2番目に古い陶器店。赤瓦屋根の木造家屋には、壺屋焼きが常時100点以上並ぶ。作家の作品に加え、RYUさんが制作した器や龍のオブジェも展開し、沖縄の海を思わせる色彩が目を引く。近年は、メキシコから直輸入したメルカドバッグの販売にも取り組み、この店ならではの品揃えを広げている。国内外の受注・発送やオーダーメイドにも対応。
沖縄県那覇市壺屋1-8-6instagram@tsuboya_kogeiten