公開日: 2025.12.01 最終更新日: 2025.12.01

【ご当地お菓子】“地域貢献”の精神から生まれた、奈良・五條、西吉野町の「柿けーき」

【ご当地お菓子】“地域貢献”の精神から生まれた、奈良・五條、西吉野町の「柿けーき」

奈良・五條の「柿けーき」
画像提供:石井物産株式会社

── 地域のお菓子をひもとけば、その場所の素敵な側面が見えてくる。

お菓子をとおして街のなかにちょっとだけお邪魔する、「ご当地お菓子」連載。
第38回は、奈良県の南西部に位置する五條市の「柿けーき」を紹介します。

ライター:吉田友希

ライター:吉田友希

01| 日本唯一の柿専門店が手掛ける、こだわり尽くしの「柿けーき」

横から見た「柿けーき」 横から見た「柿けーき」

見てください、この可愛らしいフォルム。

柿の姿をした和風パウンドケーキ、その名も「柿けーき」です。てっぺんには本物の柿のヘタが乗っていて、佇まいもかなり本格的。並々ならぬこだわりを感じます。

真上から見た「柿けーき」。保存料・着色料無添加。ナチュラルな色合いも魅力 真上から見た「柿けーき」。保存料・着色料無添加。ナチュラルな色合いも魅力

「柿けーき」は、奈良県五條市西吉野町にある全国で唯一の柿の専門店「柿の専門」が手掛けた商品です。同ブランドでは、数々の柿の加工品を展開しています。

なかでも「柿けーき」は、奈良県から特産品を使用したケーキの製作を依頼されたことをきっかけに、2010年に誕生しました。

当時のエピソードを、「柿の専門(石井物産株式会社)」の石井和弘社長に伺いました。

「柿けーきは、平城遷都1300年祭を記念して誕生しました。こだわった点は、柿を忠実に再現した見た目です。乾燥させた柿のヘタを乗せるなど、ユニークなデザインが評価され、意匠登録を果たし、“変わった意匠登録である”として、表彰していただく栄誉にも恵まれました。

開発するうえで特に大変だったのは、アレルゲンの管理です。当時、弊社には食材の使用経験や知識がなかったため、製粉会社の開発担当者に協力を仰ぎ、前会長が直々に一から焼き方を学びました。

誕生以来ずっと自社製造。手焼きにこだわっている
画像提供:石井物産株式会社 誕生以来ずっと自社製造。手焼きにこだわっている
画像提供:石井物産株式会社

釜で火傷を負いながら習得したのも、今となっては懐かしい思い出です。会長と二人で夜遅くに、知人から譲り受けた中古の電気釜を2トン車で運んだことも心に残っています」。

使っている柿は自社農園でつくったもの 使っている柿は自社農園でつくったもの

中央部分には柿羊羹がぎっしり詰まっていて、 生地にはアクセントの干し柿も入るなど、柿をふんだんに使っています。パウンドケーキのしっとりした感じと、濃厚な柿羊羹が相性抜群。噛めば噛むほど、柿の風味を濃く楽しめます。

甘いものが苦手な人でも食べやすい、すっきりとした味わい 甘いものが苦手な人でも食べやすい、すっきりとした味わい

“どこを切り取るか”によって味わいや食感が異なり、柿のさまざまな楽しみ方を教えてくれるお菓子です。

02| 「柿をステキな果物に」に、込められた想い

「柿の専門」が拠点を置く奈良県五條市は、柿の生産量日本一。西吉野町は、水はけのよい土地と柿の栽培に適した土壌に恵まれている。奈良県農協による設備投資や体制整備も、“一大産地としての西吉野”を大きく支えている
画像提供:石井物産株式会社 「柿の専門」が拠点を置く奈良県五條市は、柿の生産量日本一。西吉野町は、水はけのよい土地と柿の栽培に適した土壌に恵まれている。奈良県農協による設備投資や体制整備も、“一大産地としての西吉野”を大きく支えている
画像提供:石井物産株式会社

「柿の専門」の原点は、「捨てられる柿をなんとかしたい」という想い。もともとは梅や茗荷の加工をしていました。

「祖父が農協の組合長をしていた時代に、生産調整によって廃棄される柿を目の当たりにし、『もったいない』と心を痛めたことが原点です。その相談を受けた父は、何事にも『無理だ』と言わずに挑戦する人でした。

当時、年間何百万円もの費用をかけて廃棄されていた柿をどうにか活用しようと、粘り強く商品開発に取り組みました。『年間300トン以上の柿を加工するのが目標だ』と口癖のように語っていた父の情熱のおかげで、今の事業の礎が築かれました」と、石井社長。

柿の専門で扱う柿は、近隣のもの、もしくは奈良県産。“加工用の柿”の品質を上げることにも熱心に取り組んでいる
画像提供:石井物産株式会社 柿の専門で扱う柿は、近隣のもの、もしくは奈良県産。“加工用の柿”の品質を上げることにも熱心に取り組んでいる
画像提供:石井物産株式会社

「柿の専門」のキャッチコピー「柿をステキな果物に」。柿といえば、「生のまま」か「干し柿」か、という時代に、果敢にチャレンジを続けています。今までに送り出した柿の加工品は60品以上。「柿を科学する」というコンセプトも掲げ、柿の可能性を追求し続けています。

原材料表記は、使用した原材料に占める重量の割合が高い順に記載される。商品開発におけるこだわりは、第一に「柿をふんだんに使うこと」
原材料表記は、使用した原材料に占める重量の割合が高い順に記載される。商品開発におけるこだわりは、第一に「柿をふんだんに使うこと」

「可能であれば、原材料表記の最初に“柿”を表記したい。そのうえで、『ほかにはないユニークな商品か』『お客様に驚きを提供できるか』といったチャレンジ精神を常に重要視しています」。

03| 「西吉野町は大切な故郷」。代々引き継がれる「地域貢献」の精神を大切に

西吉野町の風景
画像提供:石井物産株式会社 西吉野町の風景
画像提供:石井物産株式会社

「柿の専門」を展開する「石井物産株式会社」は、1965年に「石井商店」として歩みをスタートしたときから、“地域のために”という姿勢を大切にしています。

「ブランド運営において最も大切にしているのは、祖父の代から続く“地域貢献”の精神です。祖父は農協の組合長や村長として、父は柿の加工事業を通じて、地域のために尽くしてきました。

とくに、父が天理市で柿の葉農園をはじめる際に、『皆が喜んでくれることがやりたい、うれしい』と語っていた姿は、今も強く印象に残っています。

私も、買い手、売り手、そして社会(地域)の三方によい影響をもたらす“三方良し”の考え方を大切にしています」。

「お客さまのために」「環境のために」「地域のために」「働く社員のために」「未来の子どものために」さまざまな活動に取り組む石井物産株式会社。清掃活動や伝統行事への参加、地元の学校での講演活動など、地域との交流も積極的に行っている
画像提供:石井物産株式会社 「お客さまのために」「環境のために」「地域のために」「働く社員のために」「未来の子どものために」さまざまな活動に取り組む石井物産株式会社。清掃活動や伝統行事への参加、地元の学校での講演活動など、地域との交流も積極的に行っている
画像提供:石井物産株式会社

また、石井社長はこうも話します。

西吉野町は、私たちにとって自然の恵みを与えてくれる大切な故郷。非常に豊かな土地ですが、今後は地域がより一層団結して、新しいことに挑戦していければと願っています。

私たち自身も、“地域のために”との想いから、五條市役所前にカフェを構えました。カフェの経営ははじめての試みです。たとえ赤字であったとしても、地域への奉仕の心でチャレンジを続けることで、必ず得られるものがあると信じています」。

石井物産株式会社の今後の展望は、奈良を代表するお土産を製造する会社になること。そして、地域貢献をしながら、魅力ある会社づくりを推進していくそうです。

柿は捨てるところがない果物で、ヘタは漢方薬にも使われるのだとか。もったいないの精神が、ここにも垣間見える 柿は捨てるところがない果物で、ヘタは漢方薬にも使われるのだとか。もったいないの精神が、ここにも垣間見える

奈良・五條の「柿けーき」、ごちそうさまでした。

柿の専門 本店(事務所前店舗)
所在地:奈良県五條市西吉野町八ツ川458
TEL:0747-34-0518
営業時間:9:00~17:00、土日祝
https://a-kaki.com//
※本店のほか、「JR奈良店」「三条通店」「にぎわい棟店」でも販売中。オンラインショップでも購入可能。

吉田友希

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